複数の選択肢があるとき、あなたはどのように選びますか?
ドッグセラピストはリラクゼーションだけでなく、マッサージやアロマテラピーや整体など広い意味で使われるようになり、近年どんどん認知されています。
それは同時にライバルが増えているということでもあります。
そんな時に必要になってくるのが「あなたが選ばれる理由」つまりブランディングです。
強み探しのポイント
前回までの章で、あなたのお客さまがどんな人かは見えているはずです。
今度はその人に興味を持ってもらえる「コンセプト」や「強み」を見つけていきます。
ここでの注意点はふたつです。
あれもこれも!と増やさない
ひとつでよいので特化することを考えてみてください。
それが個性的であればあるほど強いブランドになります。
逆に特化しないと没個性になってしまい、特化したライバルに負けてしまいます。
例えばプードルを飼っているお客さまにとって「小型犬が得意です」より「プードルが得意です」と伝えた方が興味を持ってもらえそうですよね。
ペルソナを設定したとき「たったひとりに絞る」と言ったのもこのためです。
ひとりの人だけを考えてみると、かなり行き届いた深い部分(取り巻く環境や心情)まで目を向けられるため、ほかのライバルが気づかないような相手の共感ポイントを見つけられます。
なお、ペルソナの設定はひとりでも、実際はペルソナと似ている、同じ属性の大勢に刺さることになるので安心してください。
ただし、あまりに個性的にしてしまうと市場が小さすぎて、同じ属性の人が少なくなるので注意です。
自分の軸を優先する
自己分析で見つけた自分の価値観を忘れないでください。
お客さまに気に入られるために自分を曲げては、いつか苦しくなってしまうかもしれません。
ペルソナを設定した理由のひとつが、上述の「同じ属性の人」を呼び込むことです。
自分にとって苦手なお客さまへの対応というのはどうしても起こり得ます。
それをなるべく避けるにも、「自分にとって望ましい客層」が来てくれるよう工夫することが大切です。
ライバルを知る
「犬のマッサージをします」だけではどこにでもあるサービスに埋もれます。
ほかの同じサービスと比較したとき、あなたでなければいけない理由、あなたに任せたいと思ってもらえる理由=ブランディングを探していきましょう。
そんなこと言われても、自分の強みなんて分からない。
そうなんです。
ここが難しくて、きっとこれからも悩んでいくポイントになります。
でも最初はそこまで難しく考えなくて大丈夫です。
ここで決定したからといってあとから変更できないわけではありません。
ドッグセラピストとして活動していくうちに得意なことも見えてくるはずです。
ただ、最初からある程度方向性が決まっている方が遠回りせずスタートダッシュを切れるので、ちょっと頑張って考えてみましょう。
まずは、いかにもマーケティングっぽい方法を2つ紹介します。
ライバル店との競争に勝って本格的なビジネス展開をする!という意気込みの方にとっては重要ですが、緩く趣味の範囲で展開する想定の方は「へ〜大変だなぁ」くらいに読み飛ばしちゃってもOKです。
1. 市場を研究する(任意)
あなたが目標設定で定めた活動範囲の中に、お客さまになりそうな人はどのくらいいるでしょうか。
上述の通り、ペルソナはたったひとりでも、実際には同じ属性の大勢に届くことになります。この「同じ属性の人」がどのくらいるかを調査します。
ペルソナのような「たったひとり」とは逆に広く考えてみてください。
悩みを持っている自覚はない。けれどあなたのサービスの存在を知ったらお客さまになってくれるかもしれない客層です。マーケティング用語で「潜在顧客」「見込み客」と言います。
この客層の広さと、この人達にどの程度自分の存在を認知されるかで、ビジネスの規模が変わります。
釣りで例えると、海で釣るか湖で釣るかで、そもそも泳いでいる魚の数も種類も違います。
ペルソナの所属する領域が狭すぎて同じ属性のお客さまが少なそうだと思ったら、ターゲット設定を見直してみてください。ひょっとしたらお客さまのいない、水たまりで釣りをしようとしているかもしれません。
2. ライバルを研究する(任意)
同じ市場で同じ客層を相手にしているライバルについて調べます。
すでに強いライバルがいる場合、同じ方法でお客さまの奪い合いをしても疲弊するだけです。
ライバルの強みを知って、同じ土俵で勝負するべきか?を見極めてください。
また、ライバルがまだやっていないことはそのままチャンスになり得るので探してみてください。
一番の理想は、ライバルがいない場所を探すことです。
マーケティング用語で「ブルーオーシャン」と呼ばれるエリアです。
(逆にライバルでひしめき合っている領域はレッドオーシャンと呼びます)
同じサービスを提供していても、発信方法やターゲット設定やサービスの差別化によって、ライバルがまだ手をつけていない領域に進出することができます。
犬のマッサージ店を東京で開業しようとしたとき、既に同じことをしている人はたくさんいるはずです。
ではその中で「東京に住む外国人家族を対象」にした「完全英語対応の接客」をしているお店はどのくらいあるでしょうか。ライバルは減りそうですよね。
誰も手をつけていない領域、かつ、市場の大きな領域というブルーオーシャンを見つけたら、ビジネス的には最強です。
なおこのライバル研究はうっかりやり過ぎると、相手の行動がいちいち気になって心に毒なので、ほどほどにしましょう。
差別化を考える
ここからのお話は、前述の「市場調査」「競合研究」と違って、全員に取り組んでいただきたいお話です!
差別化のパターンをいくつかご紹介します。
ここで紹介する以外にも方法はあるので、ヒントにしてみてください。
1. サービスで差別化する
一番わかりやすい差別化です。
施術メニューやシチュエーションなどで差別化します。
正直これだけでは個性としては弱いので、後述のエピソードによる差別化などと組み合わせてください。
【例】
・ドッグマッサージとアロマを取り入れた手法です。
・ドッグカフェ/ペットホテルに併設しています。
・北海道から沖縄まで、全国どこでも出張します。
・シニアの大型犬への施術経験が豊富です。
・アジリティに取り組むワンちゃんの体に詳しいです。
・毎日限定1名様。隠れ家サロンでプライベート施術。
ちょっとマーケティングっぽいお話をします。
「100円の水を1000円で売る方法」のような例え話があります。
例えば自動販売機で買ったら100円の水が、バーではコップ一杯で1000円だとします。
しかしバーでは「リッチな空間にいる」と思わせる環境や、繊細な細工の氷が入れられていたり、ライムが絞られていたり、特別感のある接客だったり、別のサービスが追加されることで1000円でも納得の価値となります。
コーヒーショップのスターバックスが価格は高くてもいつも満席な理由は、味よりも「自分がその場にいるというステータス」という環境が選ばれていることが大きいらしいです。
これらは、提供するサービスはライバルと同じだけど、組み合わせることで付加価値をつけて差別化する例です。
美容院やカフェのブランディングなども参考になります。
美容院の場合「髪を切る」というサービス自体はどこも同じです。
そこに、得意な技法やドリンクなどの無料サービス、日頃のケアのアドバイスなどの店員の接客、店内の雰囲気、ポイントカードの割引といった価値が組み合わさることで差別化されています。
2. 肩書・権威性で差別化する
経歴がある方はぜひ主張してください。
大事なお客さまの愛犬の体に触れるわけですから、専門性の高さ(権威性)は信頼に繋がります。
そんなにおすすめはしませんが、肩書がなければ自分で作っちゃうのもアリです。ユニークな肩書で興味を持ってもらったり、自分に近いと共感してもらうことで会ってみたいと思われるかもしれません。(後述のエピソードでの差別化とも似ています)あまりに突飛だと逆に客層を狭めすぎてしまうの注意です。
こちらも、これだけでは個性としては弱いので、後述のエピソードによる差別化と組み合わせてください。
【例】
・獣医が運営するサロンです。
・愛玩動物救命士の資格を持っています。
・犬の解剖学に基づいている手法です。
・ハンドラーの経験を生かし、ハンドリングで犬を落ち着かせます。
・これまでに1000頭の犬を揉んできました。
3. エピソードで差別化する
「いや、そんな特別な施術メニューも経歴もなくて…」
という場合は、エピソードで差別化します。
あなたがドッグセラピストになろうと思った理由はなんですか?
まずはこの質問に答えてみてください。
等身大であることは十分な強みになります。
過去に遡って、そもそもなぜ自分は犬が好きなのか、というところから考えてもよさそうです。
存分に想いを語ってみてください。
ブランドというからには、かっこいいイメージを持ちたい!と思いがちですが、そうではありません。
特に癒しを与える存在であるならば、肩ひじ張ったブランドより、むしろ寄り添ってくれる安心感の方が求められていると思います。
あなたの経験は、ほかの人にはない個性です。
【例】
初めて一緒に暮らした愛犬が老犬になった頃、お散歩中に座りこむようになりました。
老犬とはいえまだ12歳。歩けなくなるには早いと思い獣医さんに相談。どこにも異常はありませんでした。13歳になる頃には立ち上がるのもやっと。セカンドオピニオンに行くも、骨も神経も問題なし。そんなとき犬の整体を知りました。後ろ足の筋力がとても低下しており、これ以上衰えないよう維持することが重要と知りました。もっと早く気づいていれば。ここまで衰えきる前にケアできていたら。取り返しのつかないことに後悔しました。
だから私は犬の整体師になりました。私のように知らぬまま愛犬の変化を見落とし、手遅れになって悲しむ飼い主さんを減らすため、犬の整体という選択肢を世に広める活動をしています。
「この人になら大事な愛犬を任せられる」そう思ってもらえるような、あなたの経験や人柄や想いをエピソードにすることで、十分あなただけのブランドになります。
また水の例ですみません。
あるお店で一杯300円の「仕込み水」というメニューがありました。
雪解け水と大河が混ざり合い地下水となりテーブルに上るまでの物語が、メニューの横に添えられていました。
言ってしまえばただの水です。でも思わずその場にいた全員が注文しました。
「仕込み水」というネーミングも特別感があっていいですよね。
これがまさに「エピソードでの差別化」です。
マーケティング用語ではストーリーブランディングといいます。
もうひとつ、私が住んでいる近所にあるカフェバーの例です。
「おつまみが足りない人はここにあるお菓子を買ってください。スーパーで買うよりちょっと割高ですが、お店の経営のためになにとぞお許しを」そんなメッセージと共に市販で買えるスナック菓子が置かれていました。
気取らない店主の人柄が現れていて、つい応援したい気持ちになりました。
これは「人柄」「等身大である」ことによるエピソードの差別化です。
ちなみにこのお店のホームページは作りがかなり雑で、無料ソフトによる手作り感が満載でした。
でもこのお店の場合は、むしろそれがプラスに働いていました。
店主のゆる~い性格がホームページに現れているからです。
実際に、この店に来るお客さまも店主のような柔らかい空気を持つ人(同じ属性の人)が多いようで、食事より店主に会いに来ることが目的らしい温かな様子が見られました。
それでいいのです。
難しく考えすぎなくても、あなたの想いは唯一の物語となります。
言葉にしてみてください。
4. 発信方法で差別化する
情報の収集方法は人それぞれです。
テレビ、雑誌、口コミ、ブログ、Instagram、YouTube、いろんな方法があります。
まったく同じ事業でも、利用する手段によって、情報が届く層も相手も変化します。
ライバルがやっていない手段があり、それが自分が得意な手段なのであれば、そのまま差別化され長所にもなります。
ターゲットと照らし合わせる
ある程度、自分の強みが見えてきたのではないかと思います。
ここで一度あなたのペルソナと照らし合わせてみてください。
あなたのターゲットは、あなたに愛犬を任せたいと言ってくれそうでしょうか?
ターゲットが「近所に住む50代の主婦」なのに、強みが「10種類の資格を所有&雰囲気のいいプライベートサロン」だったら、実際にやってくるお客さんはインスタ投稿が趣味の裕福なおしゃれママさんかもしれません。
ターゲットが「アジリティやドッグショーに出場している人」なのに、「シニア犬の歩るき方を改善」というキーワードを使ったら、若い動けるワンちゃんではなく老犬のお客さまばかりが集まります。
必ずあなたが設定したターゲットを基準にして考えてください。
もしバラつきがあったのなら、そもそもターゲット設定が間違っている可能性があります。
伝え方を工夫する
ペルソナに向けた言葉に変換する
自分の強みが見えていたら、それをペルソナに向けた言葉に変換してみます。
ペルソナのプロフィールを見返して、その人がどんな生活をしていて、どんな言い回しやキーワードなら心に届くか考えてみてください。
ペルソナを描くとき、家族構成や趣味や普段の時間の使い方といった質問項目があったのはこのためです。
【例】
「お散歩意外のお世話は全部私がしているのに、お散歩担当の旦那に一番懐いててずるい!」
そんなあなたに。
愛犬がメロメロになるマッサージ教室を開催します。
その人にとって「あるある」だったり「それ私じゃん」と思ってもらえたら、あなたの話をもっと聞きたいと思ってもらえるかもしれません。
「ターゲット設定」の章でも触れた「この人はどんな言葉に共感しますか?」の回答も見返して、具体的な言葉に直してみてください。
ペルソナにどんな人だと思われたい?
ターゲットに寄り添って考える場合、あなたがペルソナにどんな印象を与えたいかもヒントになります。目標設定で決めた、お客さまとの関係性が関わってきます。
友達のように自然に話せる関係になりたい
・身近に思ってもらえるような人柄が伝わるエピソード
・プロフィール情報をたくさん掲載する
・インスタでコメントを送り合う
「先生」と呼ばれて頼られたい
・信頼されるような肩書
・責任感があると思わせるエピソード
・これまでの実績を掲載
例えば上で「身近に思ってもらえるような」「信頼されるような」と書きましたが、ペルソナにとってどういう事柄が身近/信頼を感じる共感ポイントでしょうか?
これも、ターゲット設定でどれだけ相手を深堀りできているかで決まります。
また、色や絵の与えるイメージというものがあります。
選挙ポスターの色を思い出すと分かりやすいです。
赤:熱い心、活動的
青:冷静、信頼
緑:癒し、優しさ
オレンジ:元気、明るい
ピンク:女性的、かわいい
ホームページを作るとき、「ペルソナにどう思われたいか」は重要です。
この色にしたら、この画像を使ったら、相手にどんな印象を与えることになるだろう?
これを気にしながら制作していくことになります。
女性的で高級感のある雰囲気を作りたいのに、赤と白と黄色のような「安売りの色」を連想する色は使えません。
同じく、いらすとや(素材サイト)の画像を使ったら、かわいらしい雰囲気になり高級感とはかけ離れます。
ただし、何度も言うようですが、お客さまによいイメージを持たれたいがために、自分の価値観に沿わない選択はしないようにしてくださいね。